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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(あ)2154号 判決 1963年5月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人上山武の上告趣意第一点は、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお所論は、本件爆発物件は海中に投棄されると同時にすべて無主物となったと解すべきであると主張する。そこで原判決挙示の証拠を検討すると、日本政府は、今次太平洋戦争の終戦に際して、一切の日本国軍隊の武装を解除し、かつ一切の兵器、爆薬、爆発物、軍用の装備、貯蔵品、及び需品その他一切の種類の戦争用具、戦争用資材を連合国に引渡したのであるが、これらの諸物件は、右引渡と同時に連合国の所有となり、日本国の所有物でなくなったというべきであり、連合国たる米占領軍は、右諸物件のうち本件爆発物件等を、自ら又は日本政府に命じて海中に投棄しているのであるが、これは爆発物件等の所有権を放棄する意図の下になされたものではなく、日本軍の武装解除の完全履行の目的のために、作戦上の敵対行為の一時的抑制ないし危険性の除去手段として行われたものであるから、右の海中に投棄したことをもって連合国がその所有権を放棄し、海中の爆発物件等は爾後無主物となったと解すべきではなく、深海に沈没し又は流失して管理支配が不可能に帰した物件はともかく、その余の投棄された爆発物件等の所有権は、海中より引揚げて陸上の指定解撒地域まで運搬する間は、ろ獲兵器物件(占領軍物件)として依然連合国に存していたと解するのが相当であり、こうして、これらの海底に存在する諸物件は、昭和二七年四月二八日講和条約が発効し、日本政府が完全に主権を回復し、在日米軍の占領軍としての活動が終了すると共に、日本政府に全面的に返還され、爾来海底有姿のまま、日本国の所有に帰したと認められる。右と同趣旨の判断をした原判決は相当である。

同第二点は、判例違反をいうが、論旨引用の福岡高等裁判所昭和三三年(う)第三七八号同年一一月二二日判決は、本件物件と同一性質の海底爆発物件の所有権の帰属について、その判示するところは結局原判決の判示と同一に帰着すると認められるから、原判決はこれと相反する判断を示したことにならず、従って所論は前提を欠き、同四〇五条の上告理由に当らず、また論旨引用の大阪高等裁判所昭和二八年(う)第九五七号同三〇年六月二七日付判決は、同性質の海底爆発物件の所有権の帰属につき、原判決と異った判断をしていることは所論のとおりであるが、所論第一点において判断したように、原判決の海底爆発物件の所有権に関する判示は相当であるのであるから、これと相反する判断をしている右大阪高裁の判例の見解は、これをとらない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

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